日本の「育児・介護休業法」は、働きながら育児や介護を担う労働者を支えるために設けられた重要な法律です。
特に、親の介護と仕事の両立に悩む方や、介護離職を防ぎたい方にとって、この法律を正しく理解し活用することが重要です。
本記事では、育児・介護休業法の概要、2025年改正のポイント、制度の具体的な利用方法、注意点などを詳しく解説します。

2025年に改訂された育児・介護休業法。制度の概要を把握して、仕事と介護の両立に役立ててください。
育児・介護休業法の概要について
育児・介護休業法では、以下の4つの主要制度を利用できます:
1. 育児休業制度
・子どもが1歳未満の間、育児を理由に休業できる。
▽特別制度:
・パパママ育休プラス:両親が育児休業を取得する場合、子どもが1歳2か月まで延長可能。
・産後パパ育休:出生後8週間以内に最大28日間取得可能。
2. 子の看護休暇制度
・小学校3年生以下の子どもが病気やケガをした際、1年間で最大5日(複数の子どもがいる場合は10日)取得可能。
3. 介護休業制度
・要介護状態の家族を介護するため、1人につき通算93日間の休業を取得可能。雇用保険から給付金も支給されます。
4. 介護休暇制度
・短期的な介護を目的とし、年間5日間(対象家族が複数いる場合は10日間)取得可能。
2025年改正のポイント
2025年4月から段階的に施行される育児・介護休業法の改正により、働きながら介護をする方が制度をさらに活用しやすくなります:
1. 両立支援制度の周知義務化
・企業は従業員に対し、育児・介護支援制度を個別に周知し、意向を確認する義務を負います。
2. 勤続6か月未満の労働者への対象拡大
・これまで対象外だった勤続6か月未満の労働者も、制度を利用できるようになります。
3. テレワークの努力義務化
・介護を行う従業員に対し、テレワークなど柔軟な働き方を提供することが事業主に求められます。
4. プライバシー保護の強化
・従業員の育児・介護に関する情報の取り扱いに関して、明確なガイドラインが設けられます。
5. 心身の健康配慮
・介護中の労働者と業務を代替する従業員の健康管理義務が強化されます。
ご利用時の注意点
1. 不利益取扱の禁止
・事業主は、育児・介護休業を取得した従業員に対して解雇や降格などの不利益な取扱いを禁じられています。
2. 給付金の活用
・介護休業中は無給となるケースが多いため、雇用保険からの介護休業給付金(賃金の67%が支給)を利用しましょう。
3. パート・アルバイトの対象拡大
・改正により、勤続期間が短い労働者でも利用可能になり、より多くの人が制度の恩恵を受けられます。
介護についてのポイント
1. 休暇・休業関連サービス
▽介護休業
・要介護状態にある家族1人につき、通算93日まで、3回まで分割取得可能。介護サービス手続き期間も含めて休業でき、介護終了まで何度でも請求できます。
・利用開始から3年以内に、短時間勤務・フレックスタイム・時差出勤・介護費用助成のいずれかを利用できる措置を企業が講ずる義務があります。
▽介護休暇
・要介護状態にある家族の世話のため、1年度あたり5日(家族が2人以上の場合は10日)を限度に取得可能。時間単位での取得も認められています。
・勤続6ヶ月未満の労働者を取得対象外とできる規定が廃止されたため、入社直後の社員も一律に利用できます
2. 働き方の柔軟化サービス
▽短時間勤務制度ほか選択的措置
・介護休業とあわせ、所定労働時間の短縮(短時間勤務)、フレックスタイム制、始業・終業時刻の変更(時差出勤)、介護費用助成などから、企業は少なくとも2つ以上の措置を選択し提供する義務があります。
▽テレワークの導入(努力義務)
・要介護状態の家族を介護する従業員が、介護休業を取得していない場合でも在宅勤務等(テレワーク)を選択できるよう企業に努力義務が課されます。
3. 残業・深夜業の制限サービス
▽所定外労働(残業)制限
・介護を行う従業員に対し、1ヶ月あたり24時間、1年あたり150時間を超える時間外労働を制限する制度を設ける義務があります。
▽深夜業(夜勤)制限
・午後10時~午前5時までの深夜業を制限する措置を講じる義務があります。
4. 相談・情報提供サービス
▽個別の周知・意向確認
・労働者が「介護に直面した」と申出をした際、介護休業制度や両立支援制度の内容、申出先、介護休業給付金などについて、面談・書面・FAX・メール等で個別に周知し、利用意向を確認する義務があります。
▽早期情報提供(40歳等)
・40歳に達する日の前後1年間に、介護休業制度や両立支援制度、介護保険制度等の情報を面談や書面で提供する義務があります。
▽研修・相談窓口設置
・管理職への研修実施や、社内に相談窓口を設置して周知するなど、申出が円滑に行える雇用環境を整備する義務があります。
▽事例提供・方針周知
・自社の介護休業取得事例を収集・提供し、イントラネットやポスター等で利用促進方針を社内に周知する義務があります。
5. 代替業務支援サービス
▽業務代替支援
・休業・短時間勤務中の業務を代替するため、短期代替要員の新規雇用や既存社員への手当支給などを実施しやすい体制を整備します(助成金活用も可能)。
これにより、介護で職場を離れても業務が滞らず、従業員は安心して介護に専念できます。
6.具体事例
Aさん(40代・営業職)
・父親の入院に合わせて月8時間の短時間勤務を利用。入社3ヶ月ながら介護休暇(5日)を取得し、病院送迎に充てた。
Bさん(30代・システムエンジニア)
・在宅勤務を週3日に拡大し、母のデイサービス送迎と業務を両立。残業制限により、介護日には定時退社できるようになった。
Cさん(50代・製造部長)
・製造現場への影響を防ぐため、派遣スタッフを1ヶ月間手配。会社の代替要員助成金を活用して人件費を確保し、安心して休業した。
Dさん(45歳・総務)
・40歳を迎えたタイミングで介護保険制度の説明会に参加。社内メールで早期情報提供を受け、将来の介護準備を前倒しで開始した。
仕事と介護を両立するために
1. 職場との事前相談

介護が必要になる可能性が高まった段階で、まずは直属の上司や人事担当者に早めに相談しましょう。
▽父親が脳梗塞で退院する見込みが立った際、営業課のAさんは退院予定日の1カ月前に上司と面談を設定。毎週水曜の午後に病院付き添いをしたい旨を伝え、社内の会議スケジュールを調整してもらいました。その結果、重要会議は前倒しにしてもらい、自席でのオンライン参加を許可。業務引き継ぎもチーム内で割り振り、無理なく介護と仕事を並行して行えました。
事前に相談することで、社内規定に沿った休暇取得方法や、緊急時の連絡フロー(誰に何時までに連絡するか)も明確になり、安心して介護に臨める環境が整います。
2. ケアマネジャーの活用

介護保険サービスをフル活用するためには、専門家であるケアマネジャー(ケアプラン作成担当者)との連携が欠かせません。
▽Bさん(30代・システムエンジニア)は認知症の母を在宅で介護しており、週3日のデイサービス利用を希望。ケアマネジャーと面談を行い、「月・水・金曜日の午前中にデイサービス、その後は訪問入浴サービス」を組み込んだプランを作成。これにより、Bさんは平日はフレックスタイムで11時始業に調整し、午前中は母のサポート、午後は集中してシステム開発を行う生活リズムを確立できました。ケアマネジャーは、要介護度の更新手続きや、利用できる居宅介護サービス・福祉用具貸与など、多岐にわたる情報を教えてくれる窓口です。
3. 自分の健康維持

介護に追われるあまり、自分自身の体調を崩しては元も子もありません。介護サービスや家族・地域の支援を活用し、“休息時間”を意識的に確保しましょう。
▽Cさん(50代・経理)は、妻のガン治療と在宅療養の両立に疲れがたまりやすく、週に一度はショートステイ(短期入所サービス)を利用。市の高齢者支援課が運営する宿泊型ケア施設に母を預け、その間に30分のウォーキングや整体通院の時間を確保しました。また、社内の健康相談窓口や産業医にオンラインで相談し、ストレスチェックやリラクゼーション法をアドバイスしてもらうことで、心身ともにリフレッシュできています。
このように、介護サービスの種類(デイサービス、ショートステイ、訪問看護など)を組み合わせ、自分の「休む時間」をきちんと設けることが、長期にわたる介護と業務の両立には不可欠です。
まとめ
2025年の改正育児・介護休業法では、「介護離職防止」の観点から、休暇・休業制度の利用促進、働き方の柔軟化、残業・深夜業制限、相談体制の充実、業務代替支援などが企業の義務として明確化されました。
これにより、介護を担う会社員は以前にも増して多様なサービスを会社から受けられるようになり、安心して仕事と介護を両立できる環境が整備されることが期待されます。

今後は、各企業が自社の就業規則や制度を速やかに見直し、従業員への周知・研修を通じて運用を定着させることが重要です。
関連リンク
▽介護サービスについて理解する
▽介護について相談したい
▽仕事と介護の両立について知りたい