義母が入居していた老人ホームが突然倒産した。
突然「介護施設の倒産」というショッキングなことが起きたら、どのように対応をすればよいのか戸惑うことでしょう。
この記事では、介護施設の倒産に慌てないために、万が一倒産した時のの対応方法などを解説します。ご家族でもすぐに実践できる内容を中心にお伝えしますので、いざという時のみなさまの不安解消を目指します。
介護施設が倒産する背景と実例
高齢化が進む中、介護施設の倒産が増加しています。なかでも訪問介護の倒産件数の増加が気になるところですが、有料老人ホームの倒産件数も件数こそ少ないのですが増加傾向にあります。老人ホームは需要が増える一方で経営環境は厳しさを増しています。主に以下のような要因が複合的に影響しているようです。
- 競合施設の増加による入居率低下
近年、有料老人ホームの開設が相次ぎ、一施設あたりの入居希望者を取り合う状況が生じています。特に地方都市では入居率が常に70%程度の施設もあります。90%程度の入居率がのぞましいなか収支が不安定になりやすい傾向があります。 - 人手不足と人件費高騰
介護スタッフが慢性的に不足し、求人倍率は高止まりの状態。また、賃金アップで人手を確保しなければサービス品質を保てず、結果的に人件費負担が経営を圧迫しています。
それでは、実際の倒産事例を見てみましょう。
- 事例A(神奈川県・2024年秋)
運営母体は資本金3千万円の中小介護事業者。新設ラッシュにより入居率が常に50%台で推移し、売上が人件費に追いつかず、最終的に負債約1.8億円で破産申請。入居者は数日以内に退去を余儀なくされました。 - 事例B(東京都・2023年春)
地域密着型の有料老人ホーム。周辺に大手法人運営の新設施設が開業した影響で空床が増加。運営母体の資金繰りが急速に悪化し、負債約1億円で事業停止を決定しました。

これらの事例から分かるように、入居率や人件費が経営の生命線となり、急激な環境変化に対応できない施設は潰れるリスクを抱えています。特に一部の中小規模施設は大手に比べて資金余力が少ないため、倒産リスクがある施設もあるようです。
倒産リスクの前兆を察知するチェックポイント
介護施設の倒産に巻き込まれないためにも、専門的な業界・財務知識がなくても、家族が見学時や面談時に確認できるポイントがあります。以下の項目を押さえておけば、リスクの兆候を見逃しにくくなるときがあります。
施設の稼働率・空床状況の確認
- 見学時に廊下や食堂に人が少ない場合、空室が多い兆候。受付で「現在の入居率はどれくらいですか?」と直接質問してみる。
- 空床が多いと収入減につながりやすく、中長期的に運営が苦しくなる可能性が高い。
運営母体の規模感と医療・介護の連携状況
- 運営母体が医療法人や大手介護グループかをパンフレットや公式サイトで確認する。
- 地域包括支援センターや近隣病院と提携していれば、万が一トラブルが起きた際にもサポートが受けやすい。
介護スタッフの対応や施設の雰囲気から判断する
- スタッフの挨拶・声かけ: 見学時にスタッフが笑顔で利用者や家族に声をかけているか確認する。無表情や忙しそうにしている場合は、そもそもスタッフ同士の雰囲気も悪く離職が高い職場の可能性がある。
- 職員の動き: たとえば廊下で職員が慌ただしく動き回っているような場合は、慢性的に人員不足であるサイン。余裕をもって対応しているかどうかを見極める。
- 利用者の表情・様子: 共用スペースで利用者同士やスタッフと和やかに交流しているか。孤立している人が多い場合は介護体制に不安がある可能性。
- 清掃状況や設備の劣化: 床や手すりに髪の毛が落ちていたり、汚れや劣化が見られる場合、設備更新に予算を割けない経営状況が考えられる。とくに冷暖房の劣化などは高齢者にとっては命に関わる問題なので要注意。
- 面談時の質問への回答: 「入居率はどれくらいですか?」といった踏み込んだ質問に対し、明確に答えられない施設は要注意。

これらのチェックポイントを見学時や面談時に確認することで、家族でも簡単に施設の安定性を判断できます。
安心できる施設選びの5つの視点

倒産リスクを抑えるために、新たに有料老人ホームを選ぶ際は以下5つの視点を重視しましょう。
運営母体の安定性
- 医療法人や大手介護グループが運営する施設は資金力があり、絶対ではないが比較的リスクを抑えやすい。
- パンフレットや公式サイトで法人概要を確認し、設立年や資本金をチェックする。
入居実績と地域連携
- 開設からの運営年数や累計入居者数の推移を把握する。
- 地域包括支援センターや近隣医療機関との連携体制があると、緊急時の対応がスムーズ。
スタッフの定着率と資格保有状況
- 求人票や面談時に「常に介護スタッフを募集している」状態が続いていないか確認する。常時募集は人員不足のサイン。ただし、介護業界は慢性的な人手不足の傾向にあるので、これだけで判断することはありません。
- 介護福祉士・看護師・ケアマネジャーなど有資格者が十分に配置されているか。面談時にスタッフの資格保有数を質問してみる。
- スタッフの離職率が高い施設はサービス品質が不安定になりやすいので、施設長などに「ここで何年くらいお勤めですか?」といった問いかけでヒントを探るのがよい。
施設・設備の維持管理状況
- 建物の老朽化具合を見学時にチェック。外壁や廊下、手すりにひび割れや剥離がないか確認する。
- こちらは問題ないと思われるが、バリアフリー設備(廊下幅、段差、スロープなど)が十分に整備されているか、念のためチェック。
- 共用トイレや浴室が清潔に保たれているかを見学時に確認し、清掃頻度を質問する。トイレを借りてチェックしてみるのもよいでしょう。
料金体系と契約内容の透明性
- 月額利用料・入居一時金・介護度加算などを詳しく書面で提示してもらい、費用を比較検討する。
- 追加費用(行事費・リネン交換費用など)が発生しやすい項目がないか確認する。意外とこのオプション料金がかさみ、月額費用の負担になることが多い。
- また、施設は基本料金だけでなく、収支改善のためオプションを勧めたがる傾向にある。あまりしつこいような施設は要注意。
- 契約書の解約条項に「倒産時の対応(入居金返還ルールや解約金免除)」が明記されているか必ずチェックする。
- ケースとしては少ないが、同時に早期で退去した場合ペナルティーが発生するかもチェックしておくとよい。
倒産が発覚した後にやるべき7つのステップ

有料老人ホームの倒産が正式に発表された場合、以下のフローで対応すれば慌てずに動けます。
- 正式な倒産手続きの把握
破産・民事再生・特別清算のいずれかを確認し、破産管財人や弁護士からの通知を受領する。施設管理者からの正式な案内文書を家族宛に受け取る。 - 代替施設の緊急リストアップ
空きのある有料老人ホームや高齢者住宅を複数ピックアップする。地域包括支援センターに現在の空床情報を問い合わせ、オンライン検索で電話確認する。また、「みんなの介護」や「LIFULL介護」といった老人ホーム検索サイトを利用するとよい。 - ケアマネジャーへの緊急相談
現在の担当ケアマネジャーに倒産状況を伝え、ケアプランの見直しを依頼。新たな入居候補先や、ショートステイ、または訪問介護サービスの手配などをサポートしてもらう。 - 要介護認定の最新状況再確認
要介護度変更の可能性がある場合、自治体窓口で認定結果を確認し直す。新たな施設契約で適用される要介護度にズレがないか確かめる。 - 費用負担の見直しとシミュレーション
新しい入居先の月額費用・自己負担額を試算し、家計全体を明確化。家族間で負担分担や補助金申請の方法を検討する。その際、月額費用だけでなく、初期費用(入居一時金)もしっかりと確認する。 - 家族内の連絡体制構築
兄弟姉妹や親族に状況を共有し、LINEグループや電話連絡網を整備。緊急時に誰が何を行うかをあらかじめ決めておく。 - 自治体・高齢者相談センターへの相談
一時的なショートステイ利用や福祉用具貸与などの応急措置を確認。行政の「生活支援サービス」や「緊急支援金制度」を活用できるか問い合わせる。
あらためてサービスを探す
空白期間をできるだけ短くするために、以下の手順で代替サービスを探し、申請・契約を進めましょう。
地域包括支援センターの活用
- 電話または来所で相談し、緊急利用可能なショートステイや福祉用具貸与の手配を依頼する。
- 一時的に自宅で過ごす場合は、訪問介護・訪問看護などの居宅サービスを紹介してもらう。
ショートステイ・短期入所の申し込み手順
- ケアマネ経由でショートステイの申し込み書類を自治体窓口に提出する。
- 要介護度に応じたショートステイ一覧をケアマネから紹介してもらい、空き状況を電話で確認する。
- 予約が確定したら、利用当日に必要書類(要介護認定証・身分証など)を持参し、施設へ入所する。
新たな老人ホームの選定手順
- 費用比較: 月額利用料・入居一時金・介護度加算などを複数施設で比較する。
- 見学・体験入居: 無料見学を申し込み、可能なら1日体験入居を依頼して実際の雰囲気を確かめる。
- 医療連携状況: 近隣病院やクリニックとの連携体制について確認する。
- 契約書の確認: 倒産時の対応(入居金返還ルール、解約金免除)や追加費用発生項目が明記されているかをチェックする。
- 入居後のフォロー体制: 日々のスタッフによるケアや突発事項に関する施設長、ケアマネ、看護師からの連絡方法などを確認しておく。
一時的に居宅サービスへの切り替え検討
- 新しい施設に入居できるまでの間、訪問介護・通所介護(デイサービス)を活用し、自宅介護を補助する。
- 福祉用具(手すり・杖・介護ベッド)のレンタル申請をケアマネ経由で行い、自宅介護環境を整える。
以上の手順を参考にすることで、「突然の介護施設の倒産」リスクに備え、突然の倒産でも慌てずに対応できます。家族で事前に情報を共有し、見学や面談の際には今回ご紹介したチェックポイントを必ず確認しましょう。
倒産に至りやすい小規模施設の特徴
特に入居者数が少ない小規模な有料老人ホームは、以下のような特徴を持つケースが多く、倒産リスクが高まります。
- 立地が郊外やアクセスが不便
駅やバス停から遠く、家族が面会しにくい場所は利用希望が減りやすい。車移動が必要になるため、入居判断のハードルが上がります。 - 設備が古く更新が追いつかない
初期投資を抑えた結果、定期的な設備更新ができず、老朽化が進む。最新の設備を好む利用者が増える中では、競合施設に太刀打ちできません。 - サービス内容が画一的で差別化がない
食事やレクリエーションが形式的だったり、地域のニーズに合わない場合、利用者の口コミで悪評が広がりやすくなります。
これらは表面上は見えにくい要素ですが、見学時に「外観や入口が古い」「周辺に目立った住宅や店舗が少ない」などのサインがないか、あわせてチェックしておくとよいでしょう。
スタッフの人数に対する利用者数のバランス
介護サービスの質を左右するのが「スタッフ1名あたりの利用者数」です。一般的には、介護度が重い入居者が多い施設ほど、必要な介護スタッフの数は増えます。見学時に「スタッフの人数を確認する」「どのような資格を持っているスタッフが何名いるかを確認する」などを確認するとよいでしょう。
- 職員室の見える場所にスタッフが何人いるか観察する。
例えば、居室数50に対してスタッフが2~3名程度しか見えない場合、夜間や休日に対応が追いつかず、利用者の安全管理が不十分になる可能性があります。 - 面談時に「夜勤帯の配置人数」「介護福祉士の常勤人数」を具体的に質問する。
回答が曖昧であったり、「必要に応じて派遣を使う」という回答が返ってくる場合は、人手不足の可能性が高いです。
契約前に家族同席での見学を必ず行う理由
家族だけでなく、親族や兄弟姉妹も同席して見学に行くことで、以下のようなメリットがあります。
- 多角的な視点で施設を評価できる
一人で見学すると見落としがちな箇所も、複数人であれば「トイレの手すりがきちんと固定されているか」「床に滑り止めがあるか」など、細部までチェック可能です。 - 質問しやすくなる
個別の不安や要望を家族間で事前に整理し、見学担当者へ質問リストを作成して持参することで、必要な情報を漏れなく収集できます。 - 入居後の相談相手が増える
家族が実際に見学に同席していれば、入居後にも「見学時にはこう言っていた」「あの設備はここが問題だった」といった会話がスムーズになり、施設とのやりとりが円滑になります。
代替サービス検討時の優先順位の付け方
代替施設を探す際には、「費用」「立地」「サービス内容」の3つを軸に優先順位をつけることが大切です。以下のポイントを参考に、家族間で優先順位を話し合ってみてください。
- 費用重視の場合
月額利用料の安い施設を最優先とする場合、設備やサービスが限定される可能性があります。最低限、安全管理や医療連携が担保されているかを確認しましょう。 - 立地重視の場合
家族が面会しやすい場所を優先する場合、都心部や駅近の施設は費用が高くなる傾向があります。面会頻度と費用バランスを考えながら検討します。 - サービス内容重視の場合
リハビリ機器やレクリエーションが充実している施設を探す場合は、利用者の生活の質を重視した選択になります。入居者の介護度や健康状態に応じて優先度を決めましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q1. 万が一の「介護施設の倒産」が心配ですが、倒産後にすぐに補償や支援を受けられる制度はありますか?
- A1. 破産手続きが開始された場合、破産管財人による入居金返還手続きや、行政による緊急支援金制度を利用できるケースがあります。自治体の高齢者相談窓口に早めに相談し、手続きを進めることをおすすめします。
- Q2. 倒産しそうな施設を見極めるには、どれくらい前から情報収集を始めればよいですか?
- A2. 入居前に少なくとも半年~1年前から地域の介護情報(空床状況・新規開設施設など)をチェックし、見学のたびに稼働率やスタッフの様子を確認すると安心です。定期的に訪問して変化を観察することがポイントです。
- Q3. 急に代替施設が見つからなかったとき、自宅での介護を維持するために優先すべき準備は何ですか?
- A3. まずは訪問介護や訪問看護の利用契約をケアマネ経由で進め、福祉用具貸与で自宅環境を整備しましょう。住宅改修の補助金も最大20万円まで利用可能ですので、手すりやスロープの設置を検討しておくとよいでしょう。
まとめ
- 有料老人ホームが倒産する主な理由: 競合施設増加による入居率低下と人手不足・人件費高騰が経営を圧迫。
- 倒産リスクを察知するには: 稼働率や空床状況、運営母体の規模、スタッフ対応や施設の雰囲気など、見学時に家族でも確認できるポイントを押さえる。
- 安心できる施設選びの視点: 運営母体の安定性、入居実績・地域連携、スタッフ定着率、設備の維持管理、料金体系・契約条項の透明性を必ずチェック。
- 倒産発覚後の7つのステップ: 破産手続きの把握→代替施設リストアップ→ケアマネ緊急相談→要介護認定再確認→費用試算→家族連絡網整備→自治体相談。
- 代替サービス探しのポイント: 地域包括支援センターを活用し、ショートステイや訪問サービスでつなぎながら新たな有料老人ホームを見学・契約。
- 法的手続き(入居金返還): 破産管財人へ債権届出を行い、優先弁済か一般弁済かを確認。弁護士・司法書士相談も検討。
- ケーススタディの学び: 早期の情報収集と家族の役割分担、ケアマネや地域包括支援センターとの連携が鍵。
- チェックリスト&テンプレート活用: 倒産発覚時の具体的行動を漏れなく実行できるよう、チェックリストと連絡用テンプレートを準備しておく。

これらのポイントをブックマークし、家族やケアマネジャーとも情報を共有しておきましょう。「介護施設の倒産」に備え、事前にできる準備を整えておくことが大切です。
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